くろりだいあり〜

中央省庁の中の人による雑記ブログです。

罪とコロナの法改正(前編)

コロナコロナと騒がれて早一年超え、最初は煩わしかったマスク生活もここまでくると顔の一部のように錯覚するようになってきた。

ちょうど一年前の2020年2月3日は乗客の感染が確認された「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に入港した日であり、この日を境に日本におけるコロナ禍が本格的に始まったかのように思える。

あの時はほぼ他人事にようにニュースを見ていたが、まさか2021年になってもマスクを外すことのできない生活が続いていようとは誰が想像できただろうか…

一年経っても収束の兆しを見せないどころか更に猛威を振るう新型コロナウィルスに政府は業を煮やし、遂に緊急事態宣言の法的根拠となっている「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法と呼ぶ。)」に新たな条文が盛り込まれることとなった。

昨年の11月頃、僕の部署はコロナとは比較的無縁の部署であり、コロナによってキチガイじみた業務量となった厚生労働省のコロナ対策本部へ向かいの席の係長が駆り出されていた。

これは特措法改正に向けて人員を補填するためであったが、これまで仲良く話をしていた係長は完全に音信不通となり、もはや生きているかさえ定かではない。年越し前にメールを送ってみたが未だに返事が返ってきていない。法改正はそれほどまでに過酷な現場なのだ。

この地獄の法改正についてはまた後日解説するとして、今日は特措法の改正案の内容についてみていこうと思う。

※今回の内容はかなりどっしりした内容であるため、前後編に分けて書きます。
前編では
・そもそも新型インフルエンザ等対策特別措置法とは
・緊急事態宣言のパワーアップ版「まん延防止等重点措置」って?
について書きます。

後編は特措法改正案が決議されてからですが、内容としては
・特措法改正案で新たに盛り込まれる罰則規定
・罰則だけじゃない!保障や支援を定める条文について
・特措法の影で実は改正される法律たち
を書く予定です。


【そもそも新型インフルエンザ等対策特別措置法とは】

まず、そもそも「新型インフルエンザ等対策特別措置法」とは何なのかをざ~~っくり解説しよう。
(とはいえ、ニュースで連日報道されていたので内容についてはある程度知っている方ばかりだと思うが…)

参考:実際の条文
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=424AC0000000031

この法律の名前には新型インフルエンザが名指しされているが、これはあくまで例示であり、後ろについている「等」の部分でその他の全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症をまるっと含んでいる。今回はそれがコロナのことだ。

この特措法第32条で定めている「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」こそがみんな大好き緊急事態宣言のことであり、現段階では大まかに以下の措置を掲げている。


① 外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示(潜伏期間、治癒するまでの期間等を考慮)
② 住民に対する予防接種の実施(国による必要な財政負担)
③ 医療提供体制の確保(臨時の医療施設等)
④ 緊急物資の運送の要請・指示
政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用
⑥ 埋葬・火葬の特例
⑦ 生活関連物資等の価格の安定(国民生活安定緊急措置法等の的確な運用)
⑧ 行政上の申請期限の延長等
⑨ 政府関係金融機関等による融資 等

一つ一つ触れているときりがないので、以上の概要で勘弁していただきたいが、様々な特例措置を掲げてはいるものの、その実、強制力をあまり持たないのが現状である。

緊急事態宣言は発令された地域の都道府県知事の権限は一部を除いて「要請=お願い」が出来るだけであり「営業自粛してよお~」とか「検査受けてよお~」と言うのみなので飲食店や陽性と疑わしい人が知事の要請に従わなくとも何の問題もないわけである。

ちなみに、「一部を除いて」権限がないと記述したのは数例において既に罰則規定や強制力があるからだ。
法改正前の今の時点で罰則規定があることはあまり報道されていないのに違和感があるのでここで紹介しようと思う。

条文をそのまま載せると訳が分からなくなるのでくろり流の口語訳を施したものを以下の記載する。

○既に存在する強制力と罰則規定(くろり翻訳バージョン)

第四十九条 都道府県知事は、緊急事態宣言中、臨時の医療施設を開設するために必要な土地や物資を持っている人に対して同意の上で、それらを使用することができる。ただし、土地や物資の所有者が正当な理由がないのに同意をしないとき、マジで今すぐ土地や物資がないと困る場合に限って、同意なしで使用できる。

第七十六条 都道府県知事や特定行政機関の長が感染防止に必要な物資を保管しろと命令してるのに、物資を隠したり、壊したり、勝手に捨てたり、どこかに運び出そうとした場合は「半年以下の懲役」又は「三十万円以下の罰金」に処する。

第七十七条 緊急用の医療施設を建てるための土地や大事な物資の保管に必要な土地への立入検査を理由なく邪魔したり拒否したり、命令を受けて物資の保管している人が物資の状況とかについて嘘の報告をした場合は、「三十万円以下の罰金」に処する。

以上が既に存在する強制力と罰則だ。

第49条の土地等の使用に関してはわりかし報道されていたので知っている人も多いと思うが、第76、77条の罰則については知らないという人も多いのではないだろうか。

とはいっても、かなり特殊な条件で発動する罰則であるため、これらが実際に発動したという話は聞いたことがない。

では、本日改正内容が定まる特措法の改正案はどのように変わるのであろうか。いよいよその中身に触れていこう。


【緊急事態宣言のパワーアップ版「まん延防止等重点措置」って?】

改正案の目玉は「まん延防止等重点措置(以下、重点措置)」にある。

この重点措置は端的に言えば緊急事態措置の上位互換であり、例えば緊急事態措置は緊急事態宣言が出てから原則二年まで、延長するにしても最大で三年間までしか効力を発揮できないとされているが、重点措置については原則半年間、延長しても最大一年間とされており、文字通り「重点」的な措置であることが分かる。

更に、一番ミソとなる条文がこれだ。

第三十一条の六第三項(くろり翻訳バージョン)
都道府県知事は、感染防止に必要な場合は、重点措置期間中の指定区域における事業者に対し、営業時間の変更その他休業等の措置を講ずるよう要請することができる。また、要請を受けた者が正当な理由がないのに要請に応じないときは、要請内容の徹底を「命ずる」ことができる。

第八十条(くろり翻訳バージョン)
「第三十一条の六第三項」の命令に違反した場合には、「三十万円以下の過料」に処する。

遂に、自粛要請に応じない事業者への過料が盛り込まれた。

ちなみに過料というのは罰金とは異なり前科がつかない。犯罪行為とみなされるわけではなく、お咎め料のようなイメージだ。

一応、むやみやたらと過料を課せるわけではなく、別の項で「要請の徹底を命ずる場合は予め有識者の見解を聴かなければならない。」とされているので、おそらく実際の運用としては最終手段であり、本当に過料となる事業者はいないのではないかと思う。とはいえ、金を取られるのはいずれにせよ厳しい話ではある。

重点措置が発動している最中ではこれまで以上に厳しい措置が講じられることとなるが、この自粛命令は一部に過ぎない。全てを紹介するにはあまりにも分量が多いため、今回はここまでとし、残りの罰則規定や、保障や支援等のポジティブな改正内容は後日、後編として公開する。

長ったらしい文章になったが、次回をお楽しみに!