くろりだいあり〜

中央省庁の中の人による雑記ブログです。

なぜスプーンを有料化するのか?

――今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている。

 

われらが環境大臣小泉進次郎は3月9日の閣議後記者会見においてプラごみ削減に向けた方策として

スプーンの有料化に触れた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a13abc30a59c0969a21f25f47422e5de54c2d7a2

これに対し、SNSは怒りの声に満ち溢れた。

パンデミックのさなかにやることか?」、「環境大臣が無能でアホ過ぎ!」、「もうやめて、何でもかんでも有料化…」(原文ママ

 

正直、贔屓目に見てもなぜこのような批判にさらされることが自明な施策を打ち出したのか、理解に苦しむ。

この意思決定の裏にはどのようなプロセスがあったのか、今回は環境省の公表資料を追いながら推察していく。

 

1.事の発端

コロナが蔓延するより少し前、令和元年5月31日に環境省をはじめとする9省庁の連名で「プラスチック資源循環戦略」

が策定された。

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プラスチック資源循環戦略(概要)

これは、第四次循環型社会形成推進基本計画(平成30 年6月19 日閣議決定)において「プラスチック資源循環戦略」を策定することが盛り込まれたことを受け、中央環境審議会に諮問し約一年ほどをかけて作成された政府の戦略である。

これは世界的な廃プラ問題を踏まえたものだ。資料によると、日本はワンウェイプラスチック(通常一度使用した後にその役目を終えるもの)の容器包装廃棄量(一人当たり)が世界で二番目に多いことが示されている。

戦略のマイルストーンとして

・2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制を掲げている。

さらに戦略本文(注1)では、そのための重要戦略としてリデュース、つまり削減等の徹底として

「ワンウェイのプラスチック製容器包装・製品については、不必要に使用・廃棄されることのないよう、消費者に対する声かけの励行等はもとより、レジ袋の有料化義務化(無料配布禁止等)をはじめ、無償頒布を止め「価値づけ」をすること等を通じて、消費者のライフスタイル変革を促します。」と明記されている。

まだプラスプーンが具体として挙げられてはいないものの、この時点で「価値づけ」による消費者の意識改革が重要だとされていた。

 

2.スプーンがやり玉に挙げられるまで

続いて、具体的な施策のあり方を議論するためにプラスチック資源循環小委員会が中央環境審議会の下に設置される。

その小委員会の第1回会議では議事録(注2)として以下のような内容が記録されている。

 

令和2年5月12日(火)9:00~11:00

中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会(第1回) 議事録(抄)

「脱使い捨て型プラスチックへの意識改革を、消費者含め社会全体で共有していくというのがまず大変重要なのではないかと思っています。ちょうどレジ袋有料化が7月に始まりますが、こういう流れを踏まえ、やはり消費者、市民がしっかりとプラスチックの良さを活用しながら、使い捨て型をやめていくようなそういう意識改革から生活を変えていくことで、3Rの徹底と賢い消費選択への行動変容を起こしていくといった流れを今回の取組で作っていくということが大変重要だと思います。」

この感染症の拡大の中でプラスチックの効用というものが認識をされている側面もありますし、同時にワンウェイでなければ使えないというようなものでてきているのも我々明確に意識している、同時に廃棄物回収等々されていらっしゃる事業者が非常に重要な公共サービスを提供されているということも認識をしているところで、そういう意味ではこの感染症の拡大と対応というものを1つ大きな状況の変化としてみる必要があると思っております。」

「プラスチックの有用性を認識しながら、やはり社会としてどうして全体の投入量の削減をしていくかというのが、今まで以上にワンウェイでどうしても使わなければいけない用途があるとすれば、なおさら投入量の削減に腰を据えてやっていく必要があると思います。」

 

以上の抜粋を要約すると

・コロナの拡大の中では使い捨てでないといけないものも存在する。そういう中でプラの削減をするためには削減できるものから削減しなければならない。

という議論があったようだ。

 

その後、小委員会に置いて2回の関係企業・市町村の取組をヒアリングし、この方向性について合意が図られていた。

なお、令和2年6月23日の第2回関係者ヒアリング(注3)にて、すかいらーくHDより「カトラリー」についての取組が紹介される。

カラトリーとはナイフやフォーク、スプーンなどの食器の総称である。

この場において、すかいらーくHDの担当者より以下のような発言がされる。

「ストロー以外のレジ袋、宅配・テイクアウトのカトラリー、容器等にも削減をすべく、部門横断プロジェクトチームを立ち上げ、全社を挙げて検討を進めてきたところでございます。それにより、レジ袋、カトラリーのバイオマスプラスチック製品への移行はすでに完了しています。今後の取組としては、割り箸のビニール袋、弁当容器の削減や代替素材への転換を推進するための準備を進めております。」

この発言が小委員会において初となるスプーンへの言及である。

 

その後、令和2年7月21日に、これまでのヒアリング内容を踏まえた

「今後のプラスチック資源循環施策の基本的方向性(案)」(注4)が作成された。

その中で、使い捨てプラについては以下のように記載されている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、「新たな生活様式」において、衛生目的を中心に使い捨てであることが不可欠な用途があり、ワンウェイのプラスチックの役割が再認識されていることも踏まえた対応とする必要がある。

このため、過剰な使用を回避すべきは回避するとともに、素材の代替が可能な用途では代替を進めることでリデュースを徹底した上で、それでも使用されるプラスチックについては、リサイクルなど有効利用を図っていく発想で臨むべきである。

 

また、議事録にはこのように記されている。

令和2年7月21日(火)15:00~17:00

中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会(第4回) 議事録(抄)

「プラスチック資源循環戦略でも掲げられましたように、消費者のライフスタイル変革を通じた使用の合理化を図っていくことが重要でございます。そのため消費者と直接の接点を持つ小売・サービス事業者等に対して、ストローやカトラリーを初めとするワンウェイのプラスチック製容器包装・製品について、消費者の意思確認の徹底を通じた過剰な使用の削減であるとか、代替素材への転換といったことを事業者に取り組んでいただきたいと思っていまして、事業者が取り組むべき措置を示させていただくとともに、これを踏まえた取組を行うことを求めてはどうかということでございます。これがリデュースになります。」

「まずリデュースのところについて、提供方法の工夫みたいなところも大事なのではないかという御指摘がございました。まさにそこは御指摘のとおりと思っていまして、ここで例で出しているようなカトラリーみたいなものも、ある意味お弁当を買った際などに自動的についてくる。そういう提供形態であるがゆえに、場合によっては不必要にもらってしまっている。こういったケースにもなっているのであろうと思っていますので、こういったところを工夫していく。これは極めて大事だろうと思ってございます」

 

この時点から、カトラリーの取り扱いについて言及され始めている。

すでにこの中の議論で、ストローやスプーンの使用削減、あるいは代替素材への転換が施策として明確に俎上に載せられていたのだ。ちなみに僕は紙ストローが大嫌いだ。唇にくっつくしすぐに崩壊するし…

 

そして、令和2年11月、これまでの議論を踏まえて

「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について(案)」

が作成される。こういった施策のあり方のような文書はその後、法改正や事業を打ち立てる根拠となる。

いわば国策の芽のようなものだ。

この中には今までの議論を総括したような文言が記載されている。

「また、消費者のライフスタイル変革を通じた使用の合理化を図るため、消費者と直接の接点を持つ小売・サービス事業者等に対して、ストローやカトラリーをはじめとするワンウェイのプラスチック製容器包装・製品について、消費者の意思確認の徹底、提供方法の工夫や軽量化されたものの提供等を通じた過剰な使用の削減や代替素材への転換など事業者が取り組むべき措置を示すとともに、これを踏まえた取組を行うことを求め、消費者の行動変容を促す。」

 

そして、令和3年1月28日、案から微修正が加えられて「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について」(注5)がまとまる。

 

3.法案の閣議決定

こうして小委員会でまとめられた施策のあり方をもとに、環境省が主導となって法案が作成され、令和3年3月9日

「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について(意見具申)」に則り、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」(注6)が閣議決定された。

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法案概要

この法案では【使用の合理化】の中で

・ワンウェイプラスチックの提供事業者(小売・サービス事業者など)が取り組むべき判断基準を策定する。

・主務大臣の指導・助言、ワンウェイプラスチックを多く提供する事業者への勧告・公表・命令を措置する

とある。

 

根拠法令 第三十条(平易分)

主務大臣は、特定プラスチック使用製品多量提供事業者のプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制の状況が著しく不十分であると認めるときは、当該特定プラスチック使用製品多量提供事業者に対し、その判断の根拠を示して、プラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。

3主務大臣は、特定プラスチック使用製品多量提供事業者がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

4主務大臣は、第一項に規定する勧告を受けた特定プラスチック使用製品多量提供事業者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

 

こうして、現在法案がまとまっており、近いうちに通常国会でこの法案が可決されることとなる。

 

4.有料化について

では、この法案が可決されればスプーンが有料されるのか?というところについてなのだが、実はそうではない。

法案の該当箇所の文章を確認してもらえばわかる通り、主務大臣は「必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。」とあるだけで、有料化ができるとは一言も言っていない。

そういう規定を定める場合には政令をもって法を改正しないといけないのだ。レジ袋有料化も省令の改正をもって施行されている。(下部の参考をご覧いただきたい。)

ではなぜ、ニュースではスプーン有料化と報道されSNSでは怒りのコメントがなされているのか。

これは小泉大臣の記者会見録が発端となっている。

 

小泉大臣記者会見録(令和3年3月9日(火))(注7)

(記者)菅総理からそういう打診を受けたとき、環境大臣としてできるのではないかということからすんなり受けたのかということと、もう一つ、プラスチック新法の話で、昨日の記者との意見交換の場でも、大臣からワンウェイプラスチックの有料化も方向性として考えているという話がありましたが、レジ袋が有料化している中で、これからの議論だとは思いますが、有料化となったときにどういった値段設定が適切なのか。また、コンビニの在り方はどうなっていくと考えるか、この法律によって、という部分を教えていただければなと。

(大臣)まず、プラスチックで言えば、値段とかそういったものとかはまだこれからです。そして有料化も、決定しているわけではなくて、これからまさに選択肢として議論の材料になるだろうということです。

 

なんということか。有料化はまだ確定ではないがあたかも確定情報のように報道されボコボコに叩かれていたのである。

まぁ、すでに施策の検討において俎上に載っていることから高確率で有料化はされる気がするが。

 

話を戻そう。なぜ、スプーンを有料化するという話が出たのか。

その答えは「小売・サービス事業者などによる使い捨てプラを合理化し、消費者の意識を変えてプラごみを減らす」ことにあったのだ。それが実際にどれほどの効果を及ぼすのかはわからない。

 

スプーンの有料化はすでに世間で指摘されているように多くの問題を孕んでいることだろう。だからこそ、政府はそれを強行することはできない。レジ袋有料化のように実際に有償措置を施す場合は、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の第七条の四に基づき、省令を改正する必要がある。

よって、実際にスプーン有料化を定める際には省令を改正する必要が出てくるので、確実にパブリックコメントの受付期間が設定される。有料化を止めるのであれば、全力で合理的な反対コメントを送ればいいのだ。

この国は独裁国家でも社会主義でもない。国民を主権者とする民主主義国家だ。

この国の指針を決める主体はほかでもない国民であり、有料化はその手で止めることもできる。

 

思うところがあるのであれば、ぜひとも手を挙げてほしい。それが手を挙げることにつながるのだから。

 

【参考:有償化手続き等について】

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律 第七条の四

務大臣は、容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するため、主務省令で、その事業において容器包装を用いる事業者であって、容器包装の過剰な使用の抑制その他の容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種として政令で定めるものに属する事業を行うもの(以下「指定容器包装利用事業者」という。)が容器包装の使用の合理化により容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するために取り組むべき措置に関して当該事業者の判断の基準となるべき事項を定めるものとする。

 

【参考:レジ袋有料化の根拠法令】

小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令

(容器包装の使用の合理化)

第二条 事業者は、商品の販売に際して、消費者にその用いるプラスチック製の買物袋(持手が設けられていないもの及び次の各号に掲げるものを除く。以下この項の各号列記以外の部分及び次項第一号において同じ。)を有償で提供することにより、消費者によるプラスチック製の買物袋の排出の抑制を相当程度促進するものとする。

一 繰り返し使用が可能なプラスチック製の買物袋のフィルムの厚さが五十マイクロメートル以上のものであって、その旨が表示されているもの

二 プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占める海洋で微生物によって分解が促進するプラスチックの重量の割合が百パーセントであるものであって、その旨が表示されているもの

三 プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占めるバイオマス(動植物に由来する有機物である資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭を除く。) をいう。)を化学的方法又は生物的作用を利用する方法等によって処理することにより製造された素材の重量の割合が二十五パーセント以上であるものであって、その旨が表示されているもの

 

注記