くろりだいあり〜

中央省庁の中の人による雑記ブログです。

水素水とはなんだったのか

先日、近所にある飲食店で昼食をテイクアウトしたとき、サービスで水素水がついてきた。

おいおい・・・水素水って数年前に話題になって偽科学だと叩かれまくってたじゃないか、と呆れた気持ちで渋々受け取り、昼食と共に飲んでみた。

まぁ、普通の水と大差ない味だ。

そもそも天下の伊藤園がこんなアコギな商売をするのかと疑問に思い、後日そのHPを検索してみた。

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https://www.itoen.jp/suisosui/

 

なるほど、見てみると水素水の効能については一切書かれていない。

通常の水と比較したメリットについては記載がなく、それらしい記載といえば『美や健康が気になる方に輝きめざして水素水プラス!』という記載だけだ。

ちなみにこの記述には何の問題もない。

何故ならば「水」を飲むことの健康効果は厚労省が認めているからだ。

「健康のため水を飲もう」推進運動-厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html

 

であるならば伊藤園が「水素水は、水と同じように飲用していただけます。」と明言しているように当然、水を飲むことによる健康効果は期待できるだろう。水に水素を封入すること自体に悪影響は認められないし、水素特有の効果を喧伝しない限り、炭酸水を販売することと違いはないのだ。

 

このように、水素水に突出した健康効果が今現在認めらていないことは事実である。

にもかかわらず、水素水で検索すると胡散臭い通販サイトが山ほどヒットし、「疲労回復効果、老化防止効果等」を謳い続けている。

そんな中、2021年の3月30日、消費者庁が面白い報告をしている。

 

水素水生成器の販売・レンタルサービスの提供事業者4社に対する景品表示法に基づく措置命令について

https://www.caa.go.jp/notice/entry/023608/

消費者庁は、令和3年3月29日及び同月30日、水素水生成器の販売・レンタルサービスの提供事業者4社に対し、4社が供給する水素水生成器に係る表示について、それぞれ、景品表示法に違反する行為(同法第5条第1号(優良誤認)に該当)が認められたことから、同法第7条第1項の規定に基づき、措置命令を行いました。』

 

水素水が爆誕してから4年、いよいよ消費者庁が措置命令を出したのである。

いずれの水素水サーバーレンタル業者も優良誤認にあたる表示を行ったとされており、消費者庁から

・再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。

・今後、表示の裏付けとなる合理的な根拠をあらかじめ有することなく、、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示を行わないこと。

を命じられている。

この4社はどのような掲示を行ったのだろうか。

 

例えばD社は以下のような掲示を行っていた。f:id:gen961:20210511191916p:plain

水素水とは水素分子が水溶け込んでいる水のことを言います。この水素の大きな効果として活性酸素を取り除くということが挙げられます。 活性酸素とは細胞が酸素を消費する際に作られるもので、殺菌効果などがある善玉と、酸化力が強い悪玉に分けられます。悪玉活性酸素は酸化力が非常に強力で、細胞を無差別に攻撃してしまうため老化や癌などの様々な病気の原因になると言われてます。さらに活性酸素はビタミンCも破壊してしまうため、しみやくすみの原因になることでも知られています。水素の分子はとても小さいため脳や卵子といった身体のすみずみまで入ってこの悪玉活性酸素と戦ってくれます。ですから普段の生活にかかせない水を水素水に変えることで、日々の暮らしの様々な場面で良い効果が期待できます。

 

これに対し、消費者庁は以下の指摘(抜粋)を行っている。

 

『あたかも、本件商品で生成された水素水を摂取することにより、体内の悪玉活性酸素が排除され、老化防止効果、がんなどの様々な疾病の予防効果、シミやくすみを改善する美肌効果及び筋肉疲労軽減効果が得られるかのように示す表示をしていた。』

『前記の表示は、それぞれ、本件商品及び本件役務の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものであること。』

 

つまり、消費者庁は公式の見解として、水素水には「老化防止効果、がんなどの様々な疾病の予防効果、シミやくすみを改善する美肌効果及び筋肉疲労軽減効果」は認められていないとしているということだ。

2016年当時は消費者庁が効果がないことを断定するような声明を出していた記録がなく、断定しづらいものなのかなと勝手に思っていたが、いよいよ公式にこのような記載がされたことに感慨深いものを感じる。

 

これを受けて、D社のHPは以下のように修正された。

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http://suiso-waterserver.com/html/page1.html

 

実際リンクから見てもらえば早いが、「水素水」を飲むことによる具体的効能については一切記載がなく、淡々と高濃度の水素が封入されていることのみが宣伝されている。それは事実なのだろう。

消費者庁のページからぜひほかの勧告例も確認していただきたい。実に愉快興味深い広告が確認できる。

 

「健康効果はない」と断言されているにも関わらず、消える気配を見せない水素水業界、一体どのような層によって支えられているのだろうか…

なぜスプーンを有料化するのか?

――今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている。

 

われらが環境大臣小泉進次郎は3月9日の閣議後記者会見においてプラごみ削減に向けた方策として

スプーンの有料化に触れた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/a13abc30a59c0969a21f25f47422e5de54c2d7a2

これに対し、SNSは怒りの声に満ち溢れた。

パンデミックのさなかにやることか?」、「環境大臣が無能でアホ過ぎ!」、「もうやめて、何でもかんでも有料化…」(原文ママ

 

正直、贔屓目に見てもなぜこのような批判にさらされることが自明な施策を打ち出したのか、理解に苦しむ。

この意思決定の裏にはどのようなプロセスがあったのか、今回は環境省の公表資料を追いながら推察していく。

 

1.事の発端

コロナが蔓延するより少し前、令和元年5月31日に環境省をはじめとする9省庁の連名で「プラスチック資源循環戦略」

が策定された。

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プラスチック資源循環戦略(概要)

これは、第四次循環型社会形成推進基本計画(平成30 年6月19 日閣議決定)において「プラスチック資源循環戦略」を策定することが盛り込まれたことを受け、中央環境審議会に諮問し約一年ほどをかけて作成された政府の戦略である。

これは世界的な廃プラ問題を踏まえたものだ。資料によると、日本はワンウェイプラスチック(通常一度使用した後にその役目を終えるもの)の容器包装廃棄量(一人当たり)が世界で二番目に多いことが示されている。

戦略のマイルストーンとして

・2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制を掲げている。

さらに戦略本文(注1)では、そのための重要戦略としてリデュース、つまり削減等の徹底として

「ワンウェイのプラスチック製容器包装・製品については、不必要に使用・廃棄されることのないよう、消費者に対する声かけの励行等はもとより、レジ袋の有料化義務化(無料配布禁止等)をはじめ、無償頒布を止め「価値づけ」をすること等を通じて、消費者のライフスタイル変革を促します。」と明記されている。

まだプラスプーンが具体として挙げられてはいないものの、この時点で「価値づけ」による消費者の意識改革が重要だとされていた。

 

2.スプーンがやり玉に挙げられるまで

続いて、具体的な施策のあり方を議論するためにプラスチック資源循環小委員会が中央環境審議会の下に設置される。

その小委員会の第1回会議では議事録(注2)として以下のような内容が記録されている。

 

令和2年5月12日(火)9:00~11:00

中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会(第1回) 議事録(抄)

「脱使い捨て型プラスチックへの意識改革を、消費者含め社会全体で共有していくというのがまず大変重要なのではないかと思っています。ちょうどレジ袋有料化が7月に始まりますが、こういう流れを踏まえ、やはり消費者、市民がしっかりとプラスチックの良さを活用しながら、使い捨て型をやめていくようなそういう意識改革から生活を変えていくことで、3Rの徹底と賢い消費選択への行動変容を起こしていくといった流れを今回の取組で作っていくということが大変重要だと思います。」

この感染症の拡大の中でプラスチックの効用というものが認識をされている側面もありますし、同時にワンウェイでなければ使えないというようなものでてきているのも我々明確に意識している、同時に廃棄物回収等々されていらっしゃる事業者が非常に重要な公共サービスを提供されているということも認識をしているところで、そういう意味ではこの感染症の拡大と対応というものを1つ大きな状況の変化としてみる必要があると思っております。」

「プラスチックの有用性を認識しながら、やはり社会としてどうして全体の投入量の削減をしていくかというのが、今まで以上にワンウェイでどうしても使わなければいけない用途があるとすれば、なおさら投入量の削減に腰を据えてやっていく必要があると思います。」

 

以上の抜粋を要約すると

・コロナの拡大の中では使い捨てでないといけないものも存在する。そういう中でプラの削減をするためには削減できるものから削減しなければならない。

という議論があったようだ。

 

その後、小委員会に置いて2回の関係企業・市町村の取組をヒアリングし、この方向性について合意が図られていた。

なお、令和2年6月23日の第2回関係者ヒアリング(注3)にて、すかいらーくHDより「カトラリー」についての取組が紹介される。

カラトリーとはナイフやフォーク、スプーンなどの食器の総称である。

この場において、すかいらーくHDの担当者より以下のような発言がされる。

「ストロー以外のレジ袋、宅配・テイクアウトのカトラリー、容器等にも削減をすべく、部門横断プロジェクトチームを立ち上げ、全社を挙げて検討を進めてきたところでございます。それにより、レジ袋、カトラリーのバイオマスプラスチック製品への移行はすでに完了しています。今後の取組としては、割り箸のビニール袋、弁当容器の削減や代替素材への転換を推進するための準備を進めております。」

この発言が小委員会において初となるスプーンへの言及である。

 

その後、令和2年7月21日に、これまでのヒアリング内容を踏まえた

「今後のプラスチック資源循環施策の基本的方向性(案)」(注4)が作成された。

その中で、使い捨てプラについては以下のように記載されている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、「新たな生活様式」において、衛生目的を中心に使い捨てであることが不可欠な用途があり、ワンウェイのプラスチックの役割が再認識されていることも踏まえた対応とする必要がある。

このため、過剰な使用を回避すべきは回避するとともに、素材の代替が可能な用途では代替を進めることでリデュースを徹底した上で、それでも使用されるプラスチックについては、リサイクルなど有効利用を図っていく発想で臨むべきである。

 

また、議事録にはこのように記されている。

令和2年7月21日(火)15:00~17:00

中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会(第4回) 議事録(抄)

「プラスチック資源循環戦略でも掲げられましたように、消費者のライフスタイル変革を通じた使用の合理化を図っていくことが重要でございます。そのため消費者と直接の接点を持つ小売・サービス事業者等に対して、ストローやカトラリーを初めとするワンウェイのプラスチック製容器包装・製品について、消費者の意思確認の徹底を通じた過剰な使用の削減であるとか、代替素材への転換といったことを事業者に取り組んでいただきたいと思っていまして、事業者が取り組むべき措置を示させていただくとともに、これを踏まえた取組を行うことを求めてはどうかということでございます。これがリデュースになります。」

「まずリデュースのところについて、提供方法の工夫みたいなところも大事なのではないかという御指摘がございました。まさにそこは御指摘のとおりと思っていまして、ここで例で出しているようなカトラリーみたいなものも、ある意味お弁当を買った際などに自動的についてくる。そういう提供形態であるがゆえに、場合によっては不必要にもらってしまっている。こういったケースにもなっているのであろうと思っていますので、こういったところを工夫していく。これは極めて大事だろうと思ってございます」

 

この時点から、カトラリーの取り扱いについて言及され始めている。

すでにこの中の議論で、ストローやスプーンの使用削減、あるいは代替素材への転換が施策として明確に俎上に載せられていたのだ。ちなみに僕は紙ストローが大嫌いだ。唇にくっつくしすぐに崩壊するし…

 

そして、令和2年11月、これまでの議論を踏まえて

「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について(案)」

が作成される。こういった施策のあり方のような文書はその後、法改正や事業を打ち立てる根拠となる。

いわば国策の芽のようなものだ。

この中には今までの議論を総括したような文言が記載されている。

「また、消費者のライフスタイル変革を通じた使用の合理化を図るため、消費者と直接の接点を持つ小売・サービス事業者等に対して、ストローやカトラリーをはじめとするワンウェイのプラスチック製容器包装・製品について、消費者の意思確認の徹底、提供方法の工夫や軽量化されたものの提供等を通じた過剰な使用の削減や代替素材への転換など事業者が取り組むべき措置を示すとともに、これを踏まえた取組を行うことを求め、消費者の行動変容を促す。」

 

そして、令和3年1月28日、案から微修正が加えられて「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について」(注5)がまとまる。

 

3.法案の閣議決定

こうして小委員会でまとめられた施策のあり方をもとに、環境省が主導となって法案が作成され、令和3年3月9日

「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について(意見具申)」に則り、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」(注6)が閣議決定された。

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法案概要

この法案では【使用の合理化】の中で

・ワンウェイプラスチックの提供事業者(小売・サービス事業者など)が取り組むべき判断基準を策定する。

・主務大臣の指導・助言、ワンウェイプラスチックを多く提供する事業者への勧告・公表・命令を措置する

とある。

 

根拠法令 第三十条(平易分)

主務大臣は、特定プラスチック使用製品多量提供事業者のプラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制の状況が著しく不十分であると認めるときは、当該特定プラスチック使用製品多量提供事業者に対し、その判断の根拠を示して、プラスチック使用製品廃棄物の排出の抑制に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。

3主務大臣は、特定プラスチック使用製品多量提供事業者がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

4主務大臣は、第一項に規定する勧告を受けた特定プラスチック使用製品多量提供事業者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

 

こうして、現在法案がまとまっており、近いうちに通常国会でこの法案が可決されることとなる。

 

4.有料化について

では、この法案が可決されればスプーンが有料されるのか?というところについてなのだが、実はそうではない。

法案の該当箇所の文章を確認してもらえばわかる通り、主務大臣は「必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。」とあるだけで、有料化ができるとは一言も言っていない。

そういう規定を定める場合には政令をもって法を改正しないといけないのだ。レジ袋有料化も省令の改正をもって施行されている。(下部の参考をご覧いただきたい。)

ではなぜ、ニュースではスプーン有料化と報道されSNSでは怒りのコメントがなされているのか。

これは小泉大臣の記者会見録が発端となっている。

 

小泉大臣記者会見録(令和3年3月9日(火))(注7)

(記者)菅総理からそういう打診を受けたとき、環境大臣としてできるのではないかということからすんなり受けたのかということと、もう一つ、プラスチック新法の話で、昨日の記者との意見交換の場でも、大臣からワンウェイプラスチックの有料化も方向性として考えているという話がありましたが、レジ袋が有料化している中で、これからの議論だとは思いますが、有料化となったときにどういった値段設定が適切なのか。また、コンビニの在り方はどうなっていくと考えるか、この法律によって、という部分を教えていただければなと。

(大臣)まず、プラスチックで言えば、値段とかそういったものとかはまだこれからです。そして有料化も、決定しているわけではなくて、これからまさに選択肢として議論の材料になるだろうということです。

 

なんということか。有料化はまだ確定ではないがあたかも確定情報のように報道されボコボコに叩かれていたのである。

まぁ、すでに施策の検討において俎上に載っていることから高確率で有料化はされる気がするが。

 

話を戻そう。なぜ、スプーンを有料化するという話が出たのか。

その答えは「小売・サービス事業者などによる使い捨てプラを合理化し、消費者の意識を変えてプラごみを減らす」ことにあったのだ。それが実際にどれほどの効果を及ぼすのかはわからない。

 

スプーンの有料化はすでに世間で指摘されているように多くの問題を孕んでいることだろう。だからこそ、政府はそれを強行することはできない。レジ袋有料化のように実際に有償措置を施す場合は、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の第七条の四に基づき、省令を改正する必要がある。

よって、実際にスプーン有料化を定める際には省令を改正する必要が出てくるので、確実にパブリックコメントの受付期間が設定される。有料化を止めるのであれば、全力で合理的な反対コメントを送ればいいのだ。

この国は独裁国家でも社会主義でもない。国民を主権者とする民主主義国家だ。

この国の指針を決める主体はほかでもない国民であり、有料化はその手で止めることもできる。

 

思うところがあるのであれば、ぜひとも手を挙げてほしい。それが手を挙げることにつながるのだから。

 

【参考:有償化手続き等について】

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律 第七条の四

務大臣は、容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するため、主務省令で、その事業において容器包装を用いる事業者であって、容器包装の過剰な使用の抑制その他の容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種として政令で定めるものに属する事業を行うもの(以下「指定容器包装利用事業者」という。)が容器包装の使用の合理化により容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するために取り組むべき措置に関して当該事業者の判断の基準となるべき事項を定めるものとする。

 

【参考:レジ袋有料化の根拠法令】

小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令

(容器包装の使用の合理化)

第二条 事業者は、商品の販売に際して、消費者にその用いるプラスチック製の買物袋(持手が設けられていないもの及び次の各号に掲げるものを除く。以下この項の各号列記以外の部分及び次項第一号において同じ。)を有償で提供することにより、消費者によるプラスチック製の買物袋の排出の抑制を相当程度促進するものとする。

一 繰り返し使用が可能なプラスチック製の買物袋のフィルムの厚さが五十マイクロメートル以上のものであって、その旨が表示されているもの

二 プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占める海洋で微生物によって分解が促進するプラスチックの重量の割合が百パーセントであるものであって、その旨が表示されているもの

三 プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占めるバイオマス(動植物に由来する有機物である資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭を除く。) をいう。)を化学的方法又は生物的作用を利用する方法等によって処理することにより製造された素材の重量の割合が二十五パーセント以上であるものであって、その旨が表示されているもの

 

注記

国会答弁24時

【この物語に登場する省庁、法律、事業等は全て架空のものです。国会答弁の裏に隠されたストーリーをご覧下さい。】

午前2時、ほとんどの明かりが消え、不夜城とも言われる霞ヶ関のとあるビルの一角から煌々と光が漏れていた。

健康省中年局整容課、ここにはまだ課長補佐、係長、係員が三人残り明日の国会に向けた準備に追われていたのである。時を戻そう…

~~~~~~

午後9時
係長「…まだ国会解除されないの?」

係員「そうですね…システム上だとA党の佐藤がまだ要旨出してないみたいです」

係長「ありえねええええ」

翌日に国会を控える場合、総理や各省庁の大臣に質疑を行うにあたって、事前の質問通告が与野党からなされる。

その質問内容を大まかに記したものを「要旨」というのであるが、これが出されないとそもそもどの省庁に質問されるのかが分からないため全省庁が待機することになるのである。

ちなみに課長以上の幹部級は自宅で待機してもよいこととなっている。

課長補佐「A党は党内協議に時間がかかっからなぁ…」

係長「明日は4つの委員会があって、通告されてないのはこの予算委員会だけですよ」

係員「こいつらいつも遅すぎませんか?もう定時3時間すぎてますよ」

係長「まぁ終わってない雑務片づけておこう。みんな残ってるのをいいことに今から仕事振ってくる省庁もいるし」

~~~~~~~

午後9時35分
プルルルルプルルルル ガチャ
係員「はい、整容課です。」

総務課『総務課です。総理問が当たりました。』
※総理問とは国会答弁者に総理大臣を指定された質問のこと。

係員「マジですか…佐藤君のやつですよね…」

総務課『はい、ご愁傷様です…。問の内容は今からメールで送ります。』

係員「わかりました…」ガチャ

係員「補佐~~…総理問当たっちゃいました…」

課長補佐「これはやられたなあ…終電までに帰れるといいが」

係長「メール来ましたよ。4番目の問でガッツリうちの所掌ですね」

問4.今般、中年層の薄毛問題が深刻化している。今後政府はどのように薄毛対策をすすめていくのか。総理の見解を問う。(レク無し・問い合わせ不可)【健康省】

係員「対総理でこれ聞きます?健康大臣でいいじゃないですか」
※答弁の対応者は総理・各省庁の大臣・政府参考人(役人あるいは民間人)の3パターンがある。

係長「何考えてんかさっぱりわからんが…とりあえず答弁作ろう」

課長補佐「レク無しで問い合わせ不可はきついなぁ。薄毛問題って病気や医薬品の副作用も含むと思うか?」
※レク=質問の内容についてより詳しく質疑する議員へ確認する面会のこと。

係長「中年層とあるので老化による一般的な脱毛のことで大丈夫だと思います」

課長補佐「答弁が長くなっても困るし、問の内容からして副作用は考えなくてよさそうだな。じゃあ答弁のたたき台が出来次第、科学省にメモ出しを依頼しよう。合議申請しといて」

係員「承知しました。」

基本的に、ある政策について一つの省庁の一つの課が単独で所掌していることはない。

複数の省庁がそれぞれの所掌に基づいて、政策を形作っている。今回の「薄毛問題」に関していうならば健康省・科学省・産業省が連携して対応しているわけだ。

「薄毛」に限ったそれぞれの所掌事務は以下の通り。

健康省(整容課):医療分野の薄毛治療に関する補助事業、法律に関すること。

科学省(生命科学課):理研などの国立研究開発法人における毛髪の研究開発に関すること。

産業省(医療産業課):医療産業の振興に関すること。

整容課は薄毛対策の答弁作成については通例、科学省での毛髪研究についても触れることが多いため、科学省にも答弁の共同作成=合議を申請することになっている。

(電話)
プルルルルル…
係員「お世話になっております。健康省整容課の○○です」

生命科学課(の係員)『お世話になっております。生命科学課です。問内容がオープンになりましたね。見ましたよ』

係員「さすが話が早い。うちが主担当で薄毛当たっちゃいました」

生命科学課『災難でしたね。いつも通り、対策に関することなのでうちでやってる育毛の研究開発の内容入れるんですよね』

係員「はい。お願いします。科学省を合議に入れて国会室に返しておきますね」ガチャ

係員「合議申請はやっておきます。」

係長「僕は今、過去の答弁を元に見繕っておきますよ」

課長補佐「俺は内閣官房に方針伝えておくから、任せた。」

~~~~~~~

午後10時

係長「こんな感じでどうですかね。前回の臨時国会の時に健康大臣に聞かれた問の内容とほぼ同じなのでこちらで仕上げておきました」

課長補佐「…まぁこんな感じになるよな。研究開発の書きぶりは前と同じでいいか科学省に確認しよう」

係員「答弁を科学省にメールで送りました」

課長補佐「じゃあ電話するか…」

(電話)
プルルルルル…
課長補佐「あーお疲れ様です~。健康省の××です」
生命科学課(の課長補佐)『お疲れ様です。メール見ましたよ。これ12月のやつですよね』

課長補佐「そうなんですよ、あれをベースに作ってます。」

生命科学課『ウチの内容もしっかり載せていただいてますね。ありがとうございます。ただですね、答弁内の「戦略的育毛研究推進事業」は年度末で事業終了なんですよねぇ』

課長補佐「おっと、そうだったんですか。すみません」

生命科学課『いやいや、なのでこの事業は答弁から落とす必要があるんですが、代わりに何入れようかなぁ…「頭皮イノベーション創出研究費補助金」入れられるかな。ちょっと検討して案をメールで返しますね』
課長補佐「はい、ありがとうございます。よろしくお願いしますね」ガチャ


課長補佐「育毛のやつ記載落とすらしい」

係長「それ落ちたら科学省の合議いらなくなりますね」

課長補佐「頭皮イノベーション入れるかもしれんと言ってた」

係員「頭皮イノベのHP見てるんですけど、これ育毛っていうか頭皮環境に係る研究じゃ…」

係長「頭皮環境だって育毛の大事な要素じゃないか」

課長補佐「まぁそこは科学省にうまくやってもらおう」

~~~~~~~

午後10時30分

係員「科学省から修正バージョン来ました」

課長補佐「内容見たけど、事業の紹介してるだけだし特段問題ないだろ。じゃ、あとは局幹部の了とって総務課長に見せるか」

※各省庁における答弁の幹部確認プロセスは審議官→局長→総務課長となっている。これが終われば省内の調整は終了

【省内の長いプロセスは割愛】

~~~~~

午前0時10分

総務課長『確認しました。こちらで進めてください』メール
係長「やっと終わった…」

課長補佐「まさか総務課長にA党佐藤の関心分野の育毛法の改正を付け足せと言われるとは」

係員「もう答弁の原型無くなってきましたよ」

課長補佐「メールも送ったし、あとは内閣官房に連絡だ…」

(電話)
プルルルルル…
課長補佐「お世話になっております。遅くに申し訳ございません。健康省の××です」

内閣参事官「お疲れ様。佐藤先生の問で散々だね」

課長補佐「本当ですよ…」

内閣参事官「メール見たよ。じゃあこれで総理秘書官に確認しておくね。」

課長補佐「ありがとうございます!」ガチャ


課長補佐「よーし、これで何とか帰れそうだぞ!」

係長「この時間だとタクシーですね」

係員「家に帰ってゲームしたかった…」

課長補佐「院内(国会議事堂)に持ち込む準備して」

係員「そうだまだ帰れなかったんだ…」

総理秘書官の了を取った答弁は国会議事堂内に必要部数持ち込む必要がある。

ド深夜には国会と省庁を繋ぐ定期便は出ていないため、係員はチャリンコを漕いで国会まで紙を届けるのだ。

~~~~~

午前0時40分

プルルルプルルルプルルル
係員「お、参事官かな」ガチャ

係員「はい、健康省整容課です。」

総理秘書官「お疲れさまです。秘書官の▲です、補佐と変わってください。」

係員「(げ、秘書官かよ)承知しました。少々お待ちください」ピ
~~~♪(保留音)

係員「秘書官でした。答弁修正かもです…」

課長補佐「死にたいな。変わって。」

係員「繋ぎます」ピピピ

課長補佐「はい。××です。」

総理秘書官『この答弁なんですけどね、総理はプライベートでロトー製薬の育毛剤使ってるんですよ』

課長補佐「はぁ」

総理秘書官『それで先月の育毛法の改正なんですが、この改正でミノキシジルが3%以上配合されてる医薬品については優遇するって条文に入れたでしょ?あれなんでしたっけ』

課長補佐「ええと…」(関連法令集をめくる)

課長補佐「ミノキシジル又はフィナステリドを8%未満含有する、壮年性脱毛症における発毛、育毛及び脱毛の進行予防を目的について医薬品については薬事法に定める第2類医薬品とする。ってやつですよね」

総理秘書官『そうそうそれそれ。それなんだけど製薬会社の優遇なんじゃないかって声がチラホラあって、総理も育毛剤使ってることがスッパ抜かれたら余計うるさくなるじゃない』

課長補佐「そうですかねぇ…」

総理秘書官『ま、そういうわけで、このかなりポジティブめな答弁でもいいんだけどもう少し一歩引いたような客観的な視点での答弁にしてくれませんか?』
課長補佐「な…なかなか難しいですね…」

総理秘書官『もうこんな時間ですし、省内に確認は取らなくていいからこっちに直接送って下さい。それでは』ガチャ

課長補佐「」

係長「なんとおっしゃってましたか?」

課長補佐「作り直しだと」

係長「」

―冒頭に戻るー

この後答弁は完成したのか、総理秘書官の無茶ぶり修正にこたえることは出来たのか?


答えは予算委員会の議事録のみが知る…。




出世と官僚

先日、本ブログにて以下のコメントをいただいた。(コメントありがとうございます!)

・役人の昇格制度ってどんな感じですか? 同族企業に似たようなものというイメージがあるので、現実と建前どっちも知りたいです。

そもそも僕が同族企業というのものを知らなかったので早速ググってみたところ、Wikipediaさんによると

同族経営(どうぞくけいえい)とは、特定の親族などが支配・経営する組織のことを指す。
家族経営およびファミリー企業とも称す。
(引用元:同族経営 - Wikipedia

とのことだった。すなわちコネ入社が異様に多い企業を意味しているようだ。たまに耳にすることがあるし、色々調べてみるとウォルマートフォルクスワーゲン同族経営にあたるらしい。勉強になる。

ただ、中央省庁の人事が同族企業形式であるかと言われると、全くそんなことは無いので今回は「役人の人事制度」をテーマにしようと思う。
※専門職や研究職としての採用区分も存在するのだが、今回は霞ヶ関で働く事務屋に絞って解説する。

まず、そもそも論として中央省庁で働こうと思えば、国家公務員として入ることになるのだが、その採用は大きく3種類ある。

・国家公務員総合職
・国家公務員一般職
・国家公務員専門職

このうち、国家公務員専門職は国税専門官や労働基準監督官などの、ある特定の分野のスペシャリストであり、今回説明する中央省庁の人事とは別の軸で動いているので説明は省略する。

まず、国家公務員総合職は人事院のHPにおいて「政策の企画及び立案又は調査及び研究に関する
事務をその職務とする」とされており、平たくいえば政策というコンテンツの企画・設計をする職種である。一般的に「官僚」というと、この総合職を指して使う言葉であり、幹部候補として採用される。

次に国家公務員一般職は人事院HPで「定型的な事務をその職務とする」とされ、こちらも平たくいうなれば政策というコンテンツを実際に動かす職種だ。すなわち、総合職が政策を作り、一般職が実働部隊としてそれに係る事務をこなす。

基本的な職種を説明したところでここから人事の話に入っていくのだが、総合職と一般職の人事には決定的な違いがある。

それは一般職は特定の部署での異動に固定されるのに対し、総合職はかなりバラついた部署に異動するという点だ。

総合職、一般職共に1~2年というハイペースでの人事異動が行われるのは共通しているのだが、総合職は政策の企画がメイン業務であるため色々な部署に放り込まれ様々な分野を勉強させられる。対して一般職は特定の部署・分野内での異動を繰り返し、その分野の生き字引となることが多い。

また、これは個人的に良くない事と思っているのだが、総合職と一般職で出世スピードに信じられない差が存在する。

一般職が通常係長に昇格するには8~10年かかるのに対して、総合職は入省してから最短わずか1年、遅くとも4年以内には係長となる。
その後も総合職は40~50代でほぼ全員課長クラスまで昇進するが、一般職は定年退職するまで課長補佐クラス、下手すると係長のままということもある。

ここまで露骨な昇進の差があるのはいかがなものか…という気持ちは否めない。僕自身総合職として入省させていただいているが、一般職にも僕より優秀な人はいくらでもいる。この差は是正されて欲しい。

ここで、1番最初の問に戻り同族企業のような幹部親族の幹部待遇があるかという話をするが、これは絶対にありえない。

中央省庁において幹部クラスになるためには総合職として入省する必要があり、また、総合職採用をされるためには人事院と各省庁のダブルチェックがある。両方に絶大な影響力を持つ激ヤバ幹部がいるならまだしもそんな人はまず存在し得ないので、コネ入省させることなどまず不可能だろう。

ちなみにテレビで時々話題になる内閣人事局は課長以上の幹部クラスの人事を司っており、僕のような若手ではどのようにコントロールされているのは正直よく分からない。

そのクラスまで行くとまた違う人事の世界があるのだろうが…。

と、今回は中央省庁の人事についてザッと解説した。かなりマニアックな話になった気がする。

コメントで取り扱って欲しいテーマがあれば記事を書かせていただくのでお気軽にどうぞ。

ではまた。

中央省庁働きアリの生態

国家公務員と聞くとどんなイメージをお持ちになられるだろうか

かたい、融通が利かない、面白いこと言わなさそう…等々どちらかと言えば眼鏡をかけたクソマジメな人間をイメージするのではないだろか

ぶっちゃけて言えば中で働いている人の3割はそんな感じの人達だ。全体で言うとこんな感じ

4割→どこにでもいる普通の人。The・サラリーマン
3割→クソマジメなロボット公務員。前例踏襲で死ぬほど細かい点ばかり気にする
2割→めちゃくちゃ優秀な人。この人たちが薄給で頑張ってくれてるおかげで日本は成り立っている。
1割→税金泥棒。仕事を極力しないことを美徳としており、右から左へ仕事を受け流すクソ無能(私怨全開)

こんな感じの割合であって、意外と想像されるようなロボット公務員は少ない。まあロボットが悪い訳ではなくて法令解釈みたいなロボット並の細かさが求められる仕事はこういう人たちのおかげで回っている。僕のようなガイジがミスったところはこの人たちがフォローしてくれるし無くてはならない存在だ。

半分弱を閉めるのが4割の普通の人達。
おそらく僕もここにカウントされるのだが、ほんと、どこにでもいる普通のサラリーマンだ。
民間と業務内容を除き、大差ない人達だと思う。

そして2割の優秀な人達。これがまぁすごいのなんの…どこから体力が湧いてくるのか全く検討がつかないし恐ろしい勢いで施策を進めていく。しかもそれがバカの猪突猛進ではなく、全力疾走しながら最効率のルート構成を練っているのだ。ここでいう最効率というのは作業効率の点もあるが、1番ややこしい折衝が起こらないやり方を考えているところにある。
そのまま進むと某幹部や某議員との間でやべー事になるんじゃないの…と、こちらが心配していたらなんと数週間前にトイレの立ち話で既に根回しをしていたりする。
凡人の要らぬ心配だったわけだ。
こういう人たちのおかげでこの国は駆動してるんだなぁとしみじみ毎日噛み締めている。

こういう小綺麗な話で公務員に悪い人はいないんですよ!と締めたいところではあるが、残念ながらそういう人たちだけで構成されている訳では無い。

ホントにいるんです…いわゆる「税金泥棒」って

この1割のシロアリが本当に厄介。どの部署にも必ず1人はいて、いかに仕事をしないかに全力を注いでいる。

仕事をこちらから依頼すれば〆切ギリギリまで出してこないわ、所掌の関係であちら側から出てくる発注メールを確認するとクソみたいな文章で全く理解出来ず、内容を質問すると本人がよく理解しないまま仕事を丸投げしてきたりしている事もある。
個人的なエピソードになるが、とある行政文書の保存期間確認を行う仕事をシロアリから依頼されたことがあった。(シロアリは文書関連の担当)
行政文書は一つ一つに保存期間が定められていて、保存期間が過ぎた文書は国会図書館に移管して保存するか、または廃棄するかを選ぶ必要があるのだ。
で、当時省内全体で確認しなければいけない保存期間が満了した文書は500件ほどあった。
『普通の人』であれば、少なくともその500件のうち大まかに「ここからここまでがうちの文書でした。なのでこれらについて詳細の確認をお願いします」と依頼するものだろう。
ところがどっこい、シロアリは資料一覧の内容を文書担当であるにも関わらず1度も目を通さずにこちらに依頼してきた。
さすがに乾いた笑いが出て「いや、ざっくりでいいんでどこ確認すればいいか教えてくれませんか?」と聞いたところ「内容分からないので…」


お前もう仕事やめろと。


まぁこの件は内容確認しないならこちらも作業しないと一点張りしてやらせたからいいものの、こういった自分の仕事すらろくにやらない奴がごく稀にいるのだ。これに関しては税金泥棒と言わざるを得ない。
国民の皆さん、本当にすいません。

さて、そんな訳で中央省庁はどのように機能しているかを総括すると
2割の有能が船頭を取り、4割の一般ピーポーがオールを漕ぎ、3割のクソマジメが船のメンテナンスを行っている。で、その船の後方に1割の税金泥棒がしがみついている…という構造になるわけだ。

今回は中の人たちについて解説したが、ほぼ私怨の文章になってしまったような気がする…

まぁいいか!!!!

罪とコロナの法改正(前編)

コロナコロナと騒がれて早一年超え、最初は煩わしかったマスク生活もここまでくると顔の一部のように錯覚するようになってきた。

ちょうど一年前の2020年2月3日は乗客の感染が確認された「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に入港した日であり、この日を境に日本におけるコロナ禍が本格的に始まったかのように思える。

あの時はほぼ他人事にようにニュースを見ていたが、まさか2021年になってもマスクを外すことのできない生活が続いていようとは誰が想像できただろうか…

一年経っても収束の兆しを見せないどころか更に猛威を振るう新型コロナウィルスに政府は業を煮やし、遂に緊急事態宣言の法的根拠となっている「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法と呼ぶ。)」に新たな条文が盛り込まれることとなった。

昨年の11月頃、僕の部署はコロナとは比較的無縁の部署であり、コロナによってキチガイじみた業務量となった厚生労働省のコロナ対策本部へ向かいの席の係長が駆り出されていた。

これは特措法改正に向けて人員を補填するためであったが、これまで仲良く話をしていた係長は完全に音信不通となり、もはや生きているかさえ定かではない。年越し前にメールを送ってみたが未だに返事が返ってきていない。法改正はそれほどまでに過酷な現場なのだ。

この地獄の法改正についてはまた後日解説するとして、今日は特措法の改正案の内容についてみていこうと思う。

※今回の内容はかなりどっしりした内容であるため、前後編に分けて書きます。
前編では
・そもそも新型インフルエンザ等対策特別措置法とは
・緊急事態宣言のパワーアップ版「まん延防止等重点措置」って?
について書きます。

後編は特措法改正案が決議されてからですが、内容としては
・特措法改正案で新たに盛り込まれる罰則規定
・罰則だけじゃない!保障や支援を定める条文について
・特措法の影で実は改正される法律たち
を書く予定です。


【そもそも新型インフルエンザ等対策特別措置法とは】

まず、そもそも「新型インフルエンザ等対策特別措置法」とは何なのかをざ~~っくり解説しよう。
(とはいえ、ニュースで連日報道されていたので内容についてはある程度知っている方ばかりだと思うが…)

参考:実際の条文
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=424AC0000000031

この法律の名前には新型インフルエンザが名指しされているが、これはあくまで例示であり、後ろについている「等」の部分でその他の全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症をまるっと含んでいる。今回はそれがコロナのことだ。

この特措法第32条で定めている「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」こそがみんな大好き緊急事態宣言のことであり、現段階では大まかに以下の措置を掲げている。


① 外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示(潜伏期間、治癒するまでの期間等を考慮)
② 住民に対する予防接種の実施(国による必要な財政負担)
③ 医療提供体制の確保(臨時の医療施設等)
④ 緊急物資の運送の要請・指示
政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用
⑥ 埋葬・火葬の特例
⑦ 生活関連物資等の価格の安定(国民生活安定緊急措置法等の的確な運用)
⑧ 行政上の申請期限の延長等
⑨ 政府関係金融機関等による融資 等

一つ一つ触れているときりがないので、以上の概要で勘弁していただきたいが、様々な特例措置を掲げてはいるものの、その実、強制力をあまり持たないのが現状である。

緊急事態宣言は発令された地域の都道府県知事の権限は一部を除いて「要請=お願い」が出来るだけであり「営業自粛してよお~」とか「検査受けてよお~」と言うのみなので飲食店や陽性と疑わしい人が知事の要請に従わなくとも何の問題もないわけである。

ちなみに、「一部を除いて」権限がないと記述したのは数例において既に罰則規定や強制力があるからだ。
法改正前の今の時点で罰則規定があることはあまり報道されていないのに違和感があるのでここで紹介しようと思う。

条文をそのまま載せると訳が分からなくなるのでくろり流の口語訳を施したものを以下の記載する。

○既に存在する強制力と罰則規定(くろり翻訳バージョン)

第四十九条 都道府県知事は、緊急事態宣言中、臨時の医療施設を開設するために必要な土地や物資を持っている人に対して同意の上で、それらを使用することができる。ただし、土地や物資の所有者が正当な理由がないのに同意をしないとき、マジで今すぐ土地や物資がないと困る場合に限って、同意なしで使用できる。

第七十六条 都道府県知事や特定行政機関の長が感染防止に必要な物資を保管しろと命令してるのに、物資を隠したり、壊したり、勝手に捨てたり、どこかに運び出そうとした場合は「半年以下の懲役」又は「三十万円以下の罰金」に処する。

第七十七条 緊急用の医療施設を建てるための土地や大事な物資の保管に必要な土地への立入検査を理由なく邪魔したり拒否したり、命令を受けて物資の保管している人が物資の状況とかについて嘘の報告をした場合は、「三十万円以下の罰金」に処する。

以上が既に存在する強制力と罰則だ。

第49条の土地等の使用に関してはわりかし報道されていたので知っている人も多いと思うが、第76、77条の罰則については知らないという人も多いのではないだろうか。

とはいっても、かなり特殊な条件で発動する罰則であるため、これらが実際に発動したという話は聞いたことがない。

では、本日改正内容が定まる特措法の改正案はどのように変わるのであろうか。いよいよその中身に触れていこう。


【緊急事態宣言のパワーアップ版「まん延防止等重点措置」って?】

改正案の目玉は「まん延防止等重点措置(以下、重点措置)」にある。

この重点措置は端的に言えば緊急事態措置の上位互換であり、例えば緊急事態措置は緊急事態宣言が出てから原則二年まで、延長するにしても最大で三年間までしか効力を発揮できないとされているが、重点措置については原則半年間、延長しても最大一年間とされており、文字通り「重点」的な措置であることが分かる。

更に、一番ミソとなる条文がこれだ。

第三十一条の六第三項(くろり翻訳バージョン)
都道府県知事は、感染防止に必要な場合は、重点措置期間中の指定区域における事業者に対し、営業時間の変更その他休業等の措置を講ずるよう要請することができる。また、要請を受けた者が正当な理由がないのに要請に応じないときは、要請内容の徹底を「命ずる」ことができる。

第八十条(くろり翻訳バージョン)
「第三十一条の六第三項」の命令に違反した場合には、「三十万円以下の過料」に処する。

遂に、自粛要請に応じない事業者への過料が盛り込まれた。

ちなみに過料というのは罰金とは異なり前科がつかない。犯罪行為とみなされるわけではなく、お咎め料のようなイメージだ。

一応、むやみやたらと過料を課せるわけではなく、別の項で「要請の徹底を命ずる場合は予め有識者の見解を聴かなければならない。」とされているので、おそらく実際の運用としては最終手段であり、本当に過料となる事業者はいないのではないかと思う。とはいえ、金を取られるのはいずれにせよ厳しい話ではある。

重点措置が発動している最中ではこれまで以上に厳しい措置が講じられることとなるが、この自粛命令は一部に過ぎない。全てを紹介するにはあまりにも分量が多いため、今回はここまでとし、残りの罰則規定や、保障や支援等のポジティブな改正内容は後日、後編として公開する。

長ったらしい文章になったが、次回をお楽しみに!

愛と涙の19兆円

5000兆円欲しい!!!!!!!

ってワードがバズったのはもう何ヶ月前のことだったか。
いかにも小学生が口にしそうな安直でバカバカしい金額はTwitter民の心を掴んで離さなかったのか、一時期のTLにはこの金額が毎日のように流れてきていた。

僕だって5000兆円欲しい。
冷静に考えてあと仮に100年生きるとしても1年に50兆円も使えるわけで、50兆円あったら何ができるかなんて想像することすら出来ない。
でかいテレビと美味しいご飯が炊ける炊飯器とPS5を買って俺は満足するかもしれない。

ただ、我々庶民には魅力的な「兆」という単位も国単位で見ればカツカツの金額になってしまう。

令和2年12月15日、政府は第3次補正予算案として19兆1761億円を計上し閣議決定した。

(※補正予算というのは令和元年度時点で予め令和2年度の国家予算は決めていたものの、コロナ等の予測外の出来事で金が足りなくなったため、令和2年度に追加で積み上げる国の予算のこと。)

これがどれだけデカイ金額なのかは、2000年代に入ってから補正予算が2兆円を超えたことがなかったという事実でお分かりいただけるだろうか。
これはマジで額として過去最大級。
そもそも第1次補正予算で25兆5655億円、第2次補正予算で既に31兆9000億円を計上済なのでこれらと合わせるとなんと約76兆円という金額になる。
76兆円。さっきの5000兆円の年割シミュレーションで想定していた額よりももっとでかい。これは凄い。

なのに

それだけあっても

今の日本の現状を見ればわかる通り充足している金額とはとても言えない。

国を支えるために必要となる金の量というのはそれほどまでにえげつないということがよく分かる。

ただ、この額を積み上げるためにも霞ヶ関の住民は知恵を限界まで絞り上げている。
ただでさえコロナで予算繰りが厳しい中、いかにして未曾有のパンデミックに対応するか、各省庁の各部局がウンウンうなって深夜まで残業してつくりあげた成果が76兆円なのだ。

今回はそんな補正予算の内訳について軽く解説しようと思う。
ちなみに、第1次と第2次補正予算は既に執行されて使用されている金額なので今回の解説には含めない。もう給付金とかGotoトラベルとかニュースでもやってたでしょう。あれが第1次、第2次の目玉政策だった。
今回はこれから執行されていくことになる第3次補正予算案の19兆円の中身の解説をする。

まず初めにお伝えしておきたいのだが、第3次補正予算案の中身は全部が全部コロナ対策っていう訳では無い。
今この国はコロナばかり騒がれているけれども(それは当然なんだが)、最優先課題としてコロナに対応しつつもポストコロナを見すえた経済対策や、いつ起こるとも分からない大災害に今のうちから備える必要がある。

このことから第3次補正予算案の中身は大きな3つの柱で成り立っているわけだ。この3つの柱というのが以下の通り。

第1の柱:新型コロナウイルス感染症の拡⼤防⽌策
4兆3581億円

第2の柱:ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現
11兆6766億円

第3の柱:防災・減災、国⼟強靱化の推進など安全・安⼼の確保
3兆1414億円

この金額比率からなんとな〜く現政府の優先課題が見えてこないか?その是非を論ずる気はまるで無いけど面白い傾向は確かにあると思う。
あんまり突っ込むと右だの左だのうるさい話になってきそうなのでこれくらいにしておくとして、それぞれの柱の中身を見ていこう。

とはいえ全部の柱の中身を細かく見ていくと、キリがないので、今回はダイジェストで紹介する。
詳しく知りたいなら財務省のページから適宜確認してください。

まず、第1の柱
新型コロナウイルス感染症緊急包括⽀援交付⾦(病床や宿泊療養施設等の確保等)〔13,011億円〕
新型コロナウイルスワクチンの接種体制の整備・接種の実施〔5,736億円〕 等

Twitterでもニュースでも医療従事者への支援が声高に叫ばれている昨今において、この緊急包括支援交付金はまさしくその人達のニーズに応える予算だろう
医療崩壊なんて起きたらたまったもんじゃないし助かる人も助からなくなってしまうので、早く病床の確保に急いで欲しいものだ。

続いて第2の柱
カーボンニュートラルに向けた⾰新的な技術開発⽀援のための基⾦の創設〔20,000億円〕
Go To トラベル〔10,311億円〕
Go To イート〔515億円〕 等

カーボンニュートラルってなんだよってなる人が多いと思うので簡単に説明すると、地球温暖化や異常気象の原因になってる二酸化炭素排出量を0にしましょうという試みのこと。
コロナと何の関係もねーじゃん!ってなる人もいると思うけど、

はい、関係ないです。

コロナとは全く無関係に地球の環境保護は大事なので仕方ない。
え?こんな時に補正予算で措置すんなって?
ぶっちゃけ僕もそう思います。(カーボンニュートラル関係の事業に携わる部署なのでありがたいけど…)

あとGotoね、これどうなるんだろうか、年末年始中止になっちゃったし、今後の動向が気になるところだ。
これは完全に個人の感想だけど、国の金で旅行に行きたいので続けてください、ぜひ。


では最後に第3の柱
防災・減災、国⼟強靱化の推進(公共事業)〔16,532億円〕
⾃衛隊の安定的な運⽤態勢の確保〔3,017億円〕

ここは防災体制の強化に特化してるところです。
日本は地震多いし台風もしょっちゅう来るし、これは正当な予算だと思っている。
国土強靭化推進のところは僕のラインも2億円ほど要求してます。マジで大事なので。

と、ざっくりとした紹介にはなったけれども、第3次補正予算案の中身はこのようになっている。
ニュースでチラッと聞くだけだったかもしれないけれど、自分の収めた税金の使われ方を知っていただくキッカケになれれば幸いです。

今回はこのあたりで。みんなもコロナに負けないでね!(雑な締め)